【医師】人の命の限界とは? 【監修】

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【後編】


皆さん、普段の生活の中で「限界だ…」と感じるときはありませんでしょうか?

 

「仕事で疲れが極限までたまっているとき」

「運動で体を酷使したとき」

「夫婦喧嘩でストレスが限界を突破したとき」

 

など、いろんな状況で限界を感じることと思います。

今回はそんな人間の限界点について、何点かの要素をまとめてお届けします。

なかなか身近に感じづらい情報もあるかもしれませんが、トリビアとしてお楽しみください!

 

  1. 栄養
  2. 睡眠
  3. 寿命
  4. 体温
  5. 重力
  6. まとめ

 

栄養

成人の基礎代謝量のカロリーは体重の25~30倍とされています。

すなわち、体重60kgの男性なら1500~1800キロカロリー程度です。

ヒトは日々の活動のエネルギー源として肝臓と筋肉グリコーゲンを蓄えていますが、これは食事をとらないと約1日ですべて血糖・グルコースとなり全身で使い果たされます

グリコーゲンを使い果たしても、さらに栄養が不足していると肝臓中で脂肪酸の分解経路であるβ酸化回路が活性化され、肝臓中の脂肪がβ酸化を経てケトン体に変化し血流中に流出します。

このケトン体全身でグルコースの代わりにエネルギー源として利用されるのです。

つまり、栄養が欠乏するとまず肝臓や筋肉中のグリコーゲンが消費され、ついで肝臓中の脂肪がエネルギー源として使われるのです。

そして、人体が飢餓状態といわれるほどの栄養不足に陥ると体脂肪や皮下脂肪など肝臓以外の脂肪が血流に乗って肝臓へと運ばれ、これもまた肝臓でβ酸化されてケトン体に変わり同じ様ににエネルギー源となります。

この仕組みにより、ヒトは理論上は水分の補給さえあれば絶食状態で2~3ヶ月程度生存が可能であり、この限界を越えれば餓死に至ることになると言われています。

 

たとえば、仮に体重 70kg・体脂肪率 20%」の人がいたとします。

その人には

 

70 kg × 0.2(体脂肪率)=14kg

 

の体脂肪があります。

脂肪のカロリーは 9kcal/g ですので

 

14 × 1,000 × 9 = 126,000kcal

 

のエネルギーが体内に蓄えられていることになります。

絶食により運動強度が下がった結果、その方の基礎代謝量は1200kcal/日と仮定すると

 

126,000 ÷ 1,200 = 105日

 

となり、この計算だとヒトは絶食後3ヶ月半ほど生存することができることになります。

ただし、これはあくまでエネルギーの計算上というだけで、実際には健康な状態を維持することは不可能に近いと言われています。

その理由は、ヒトの体内ではタンパク質・核酸・無機塩類・その他様々な生理活性物質が緩やかに代謝回転しており、それらの新規合成のために必須アミノ酸・必須脂肪酸・ミネラル類・様々なビタミンなどを食物より摂取する必要があるからです。

逆にこれらの摂取がない場合、筋肉などが分解して別のタンパク質の合成のためのアミノ酸源として使われることになります。

睡眠

「人を何週間も完全に断眠するような研究」を行うことは倫理上困難ですが、軍隊など極度の睡眠不足が生じる特殊状況下では免疫細胞の活性低下抗体の減少など免疫力が全般的に低下すると報告されています。

また、より短期間の断眠や睡眠不足でも何度も繰り返されることで悪影響が生じることも分かってきたのです。

 

睡眠科学の分野で最も有名なのはアメリカ・サンディエゴ高校生ランディ・ガードナーが樹立した264時間(11日間)の不眠記録です。

これより長い断眠記録も実際にはあるようですが、ランディ青年の挑戦には睡眠研究で有名なスタンフォード大学のウィリアム・デメント教授が立ち会っており信憑性が高いとされています。

では、11日間の不眠状態の間にランディ青年の身に何が起こったのでしょうか?

 

最初の2日目までは眠気倦怠感(けんたいかん)が強かったとのことです。

4日目には自分が有名プロスポーツ選手であるという誇大妄想が出現しました。

6日目には幻覚が生じ、9日目には視力低下被害妄想が出ております。

 

では、11日間の断眠を達成した後、ランディ青年は一体どうなってしまったのでしょうか。

 

その後も幻覚に悩まされた?

記憶障害の後遺症が残った?

はたまた不眠症に陥ったのか?

 

いえいえ。

実は、彼は断眠終了後にたった15時間ほど爆睡した後に自然に覚醒し元通り元気になりました。

身体面には大きな問題が生じなかったといわれており、最終日に軽度の記憶障害などが生じたそうですがすぐに回復し、精神面でもなんら後遺症を残さなかったのです。

寿命

1963年時点153人だった日本の100歳以上人口は、54年後の2017年には6万7824人に増えました。

たった半世紀でここまで長寿の方が増えてしまったのです。

 

では、ヒトはどこまで長生きできるのでしょうか?

そもそも我々自身の身体は、母親からつくられた卵子が父親の精子と受精した後に、たった一つの細胞として生を受け、その1つの細胞が分裂し自身の体をつくり出しています。

さらに、これらの細胞は古くなったり傷ついたりすると、自己複製常に新しい正常な細胞に置き換わることで生命活動は維持されています。

これらのことから考えると、我々の寿命を決定しているものは細胞の寿命ということになるでしょう。

ですので、細胞がいつも新しく元気であれば我々自身もいつも健康ですし、正常な機能を持った細胞が無限に分裂でき再生できれば我々自身も一生死ぬことはないでしょう。

 

しかし、これら細胞の分裂回数は有限であることが知られています。

これはヘイフリック限界と呼ばれ、人間の細胞分裂の回数の自然な限界をさしています。

ヘイフリック限界がおとずれた細胞は分裂することをやめ細胞老化と呼ばれる状態となり、やがてその細胞は死を迎えます

この細胞死が我々の寿命を規定しているということになるでしょう。

現在のヒトの細胞のヘイフリック限界指数は50で、最大寿命は約120年と言われています。

すなわち、120年という時間が我々の臓器が最大限耐えられ生命活動を維持することができる限界点と考えられています。

体温

皆さんの平熱はどれくらいでしょうか。

おそらく36~37度の範囲に収まっていると思います。

風邪をひいたりして38度を超えたあたりになるとがあると判断し、仕事を休もうかなと思うことでしょう。

インフルエンザなどの場合は39度や、下手をすると40度を超える場合もあり、そうなってしまうと日常生活は非常に辛く「自分、このまま死ぬかもしれない…」と思う方もいるかもしれません。

 

間の生存限界体温42度と言われています。

体温が42度を超えるとたんぱく質が変性体内の酵素が活動できなくなる様になります。

この状態が続くと人間は生命活動を維持できないのです。

42度を超えたら即死ぬというわけではありませんが、熱が下がらなければそのまま人生の終焉を迎えてしまいます。

そのため体温計も42度までしか用意していないと言われています。

 

ちなみに人間の体温は普段の風邪などの一般的な病気で42度を超えることはありません。

42度を超えたら何か異常な事態が起きていると考えられます。

42度を超えたら速やかに病院に行き、適切な検査と治療を受ける必要があります。

いわれなくても分かりますよね…(笑)

 

ちなみに、人間は42度以上の外気の中にいても耐えられるようになっています。

たとえばお風呂サウナがいい例です。

これは人間の体に体温調節機能があって、体の中心の温度である深部体温がそれほど上がらないためです。

ただ、あまりに長い時間 42度以上の外気の中にとどまると低温ヤケド熱中症になってしまうため、サウナやお風呂はほどほどにしておいたほうがいいかもしれません。

重力

長年、研究者たちは地球以外で人類が居住可能な惑星を探索し続けてきました。

惑星の居住可能性を評価するためには

 

  • 温度
  • 日射量
  • 気圧
  • 大気組成

 

などが重要になりますが、それ以外にも、ヒトが起き上がって直立したり合理的な速さで歩行できる環境かどうかを判断するうえで表面重力も重要な指標の一つとして考えられます。

では、ヒトが長期間にわたって生活できる表面重力の限界はいったいどれくらいでしょうか。

 

クロアチアザグレブ大学の研究プロジェクトでは、2018年8月「惑星の重力がヒトの運動能力にもたらす作用」についての研究論文を発表しました。

この論文では「重力が4gを超えると、ヒトは通常の歩行ができなくなる」と結論づけています。

 

研究プロジェクトでは、まず体重50kgのヒトの骨格が耐えられる重力の上限値を分析しました。

”全く動かない状態”でどの程度の重力に耐えられるかを検討した場合、その上限は90Gを超えるという結果が出ましたが、”ヒトが動く際の動的応力”も考慮するとおよそ10Gが限界でした。

また、”座ったり、横になったりしている状態から身体を起き上がらせる筋力がはたらく上限”5Gであることが判明しました。

言うまでもなく、私たち人間の骨格や筋肉は地球の重力に適したものとなっているため重力の高い環境下ではうまく機能しないおそれがありますが、研究プロジェクトの考察によれば「フィジカルトレーニングによって3Gから4G程度の重力に耐えうる強度を備えることは可能だ」と言われています。

 

ちなみに、人間が耐えた重力のギネス記録179.8Gです。

これはF1レーサーデビットパーレイレースでクラッシュした瞬間の重力です。

事故時の速度175km/hと言われ、最初に激突したキャッチフェンスと次に激突したフェンスとのわずか66cmの間で一気に0km/hまで減速したことになります。

このときパーレイの身にかかった重力加速度(G)計算上「179.8G」に上ると公表されているのです。

パーレイはこのとき激突による衝撃で

 

  • 両腕両足を粉砕骨折
  • 首の骨(頸椎)の骨折
  • 内臓破裂
  • 心臓停止

 

という最悪の状態発見され、誰もが彼の命をあきらめかけていました。

しかし、搬送先の病院でパーレイの心臓が奇跡的に再び動き出し、その後も心停止と再開を繰り返しながらも医師の懸命の治療の甲斐もあって見事一命を取り留めたのです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回は各要素における人間の限界点についてお届けしました。

日常生活に応用できそうなものから、想像もつかないような限界点までさまざまなものがあったと思います。

いちばん身近な私たちの身体に関することですので、頭の片隅に置いておいていただければ嬉しいです!

 

今回の記事は以上となります。

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参考文献

  1. Hayflick, L. (1961). “The serial cultivation of human diploid cell strains.”. Exp. Cell Res.: 585-621.
  2. 三浦豊彦ほか(1953) :高温環境下の安静時及び筋労作時の直腸温度について。労働科学, 29, 309―317.
  3. Poljak N, Klindzic D, Kruljac M. Effects of Exoplanetary Gravity on Human Locomotion Ability. The Physics Teacher. 2019 Sep;57(6):378-81.
  4. “David Purley”. Motorsport Memorial. (12/17/2014)

【監修医師】

  1. Dr. KyoJi: 医師11年目の外科医, 新宿の医局→フリーランス, 《Twitter》https://twitter.com/dkyoji
  2. 小山翔平 (Shohei Oyama): 整形外科専門医, おやま整形外科クリニック院長 《Web》https://oyama-seikei.gassankai.com/