精子は実は回転しながら進んでいた!?

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皆さん、精子どんな動きをしていると思いますか?

恐らく、ウナギや蛇のようにくねくね動いていると思っている人が多いのではないでしょうか?

しかし、2020年の最新の研究結果によってその動きが実は間違った認識であったと解明されました。

 

精子という小さな小さな男性の生殖細胞(せいしょくさいぼう)は、人の生殖活動には不可欠な存在です。

人間の精子には頭部(とうぶ)、中間部(ちゅうかんぶ)、尾部(びぶ)があり、半透明のオタマジャクシのような形をしています。

そのしっぽを鞭(むち)のように動かして受精のために卵子に向かって泳いでいくのです。

 

男性は1秒間に1,500個もの精子を作ることができ、1度の射精に含まれる精子の数はおよそ2億5千万個以上と言われています。

 

このように生殖という全体像についてはさまざまなことがわかっておりますが、精子や卵子など個々の細胞や組織の構造がすべて詳細に研究されてきたわけではありません。 

特に精子の動き方についてはまだ未解明な部分も多かったのです。

 

そんな中、近年の科学技術の発達により低温電子顕微鏡断層撮影法(ていおんでんしけんびきょうだんそうさつえいほう)・通称低温ET(ていおんいーてぃー)という革新的なイメージング技術が開発されました。

この低温 ET のおかげで精子に関する新たな事実が明らかになったのです。

 

今回は、そんな最新の科学技術を使って精子の謎を解明した論文をご紹介し、精子の新たな事実についてお伝えします。

 

  1. 精子はらせん状に旋回して進行
  2. 精子の運動の歴史
  3. これまでの認識が誤っていた理由
  4. 精子の運動方法解明の応用
  5. まとめ

 

精子はらせん状に旋回して進行

皆さんは精子がどのようにして動いているかご存知でしょうか?

もしかしたらテレビなどで精子のイメージアニメーションや顕微鏡動画(けんびきょうどうが)を見たことがある人もいるかもしれません。

 

これまでは、精子は鞭毛(べんもう)と呼ばれる尻尾のような構造をもち、ヘビやウナギのように泳いでいると信じられていました。

皆さんが見たイメージアニメーションでも、そのように尻尾を使って“うねうね、にょろにょろ”と動いていたのではないでしょうか?

 

ところが、2020年に掲載されたイギリスメキシコの共同研究によって、精子はらせん状に旋回して進んでいることが明らかになりました。

精子の運動の歴史

その説明に移る前に、ここで少し精子の運動についての歴史をお話しします。

オランダアントニー・ファン・レーウェンフック氏300年以上前人類で始めて精子の動きを観察した科学者です。

自分で開発した顕微鏡を用いてじっくりと精子を観察したレーウェンフック氏は、「精子にはヘビやウナギのように泳ぐための尻尾がある」と述べていました。

 

その後も精子についての研究が続けられると同時に、顕微鏡にも様々な改良が加えられました。

そしてレーウェンフック氏をはじめ近代の科学者では確認できなかった事実が、現代になって明らかになってきたのです。

 

今回の論文では、ブリストル大学メキシコ国立自治大学のメンバーから構成された研究チームが、より詳細に精子の運動を観察するために最先端の3D顕微鏡(すりーでぃーけんびきょう)を使いました。

彼らは精子のサンプル素早く上下に動かす機能を備えた顕微鏡を設置し、毎秒55,000fpsのハイースピードカメラで撮影し、精子の尻尾の動きを3Dマッピングしました。

 

その結果、精子の鞭毛は実は不安定一方向に偏って揺れていることがわかりました。

このような構造の影響もあり、精子は円を描くようにして泳いでいることが判明し、揺れの幅を狭くすることでまっすぐに進むという事実が確認できたのです。

ヘビやウナギのように“うねうね、にょろにょろ”と泳いでいるのではなく、わかりやすいように例えれば、ピストルから放たれた銃弾が回転しながらまっすぐ進むようなイメージで、精子も回転しながらまっすぐに動いていくのです。

この動き方について、ブリストル大学工業数学部ハーミーズ・ガデーリャ氏

「『元気いっぱいなカワウソが水中を旋回(せんかい)して進むように』、精子は不均衡(ふきんこう)なしっぽを回転させて進んでいます」

と語っています。

これまでの認識が誤っていた理由

ではレーウェンフック氏が“なぜ精子がうなぎのような動きだ”と考え、後世の研究者たちも“なぜ今までそれが間違いであることに気づかなかった”のでしょうか?

それは

「従来の2Dの顕微鏡で観察すると、精子の高速な回転によって我々の目に錯覚が生じ、尻尾が左右対象に動いて見えるためではないか?」

とガデーリャ氏は説明しています。

これまでの研究では、2D の顕微鏡によって精子は二次元平面でのみで観測されてきましたが、今回の研究で使用された 3D顕微鏡は精子の泳ぎ方を特定するに至る非常に重要な発明だったのです。

精子の運動方法解明の応用

さらに、今回の研究による新たな発見は「精子の正しい運動方法」を証明しただけではありません。

この発見は、これまで2Dでの精子観察に頼っていた不妊治療でのコンピューターによる精液分析システムに改善の余地があることを教えてくれています。

簡単に言えば正しい精子の運動方法を理解することで、不妊治療の効果を高められる可能性があるということです。

 

実は、不妊の1/3は男性側に問題があるという研究結果があります。

その男性不妊の原因究明の一環として、この精子の運動の解明結果が応用される可能性があります。

“うなぎのように泳いでいるという錯覚”を克服することで、精子分析の質が向上され、男性不妊に効果的な治療の開発が期待されるのです。

 

少し話は逸れてしまいますが、この動画の冒頭でお話しした通り、男性は1秒間に1,500個もの精子を作ることができ、1度の射精に含まれる精子の数はおよそ2億5千万個以上と言われています。

そんな大量の精子をつくる過程で、どうしても不良品のような精子ができてしまいます。

自然妊娠の場合、膣内に射精された精子のうちこの不良品のような精子はうまく泳ぐことができないため、卵子までたどり着くことができません。

この精子の自然淘汰(しぜんとうた)が働くため、卵子までたどり着くことができる精子は正常でたくましい精子のみであり、その正常な精子が受精し生まれてくる赤ちゃんは健康に育つ可能性が極めて高いのです。

 

しかし、不妊治療の場合は話が変わります。

以前「不妊症」に関する動画でも説明した通り、体外受精では女性から採取してきた卵子に精子を人為的にふりかけたり顕微授精では採取してきた卵子に非常に小さいスポイトで精子を直接注入します。

そのため、精子は女性の膣内を泳ぐことなく簡単に卵子にたどり着くことができてしまうのです。

したがって、そこに精子の自然淘汰が働かなくなってしまいます

本来子宮内で淘汰されるべき不良品の精子が卵子と受精してしまい、赤ちゃんにも障害や悪影響が出てしまう可能性が高くなってしまうのです。

 

現代の不妊治療の技術では、その“健康な精子と不良品の精子の選別”が重要な課題だと考えられていますが、この研究により健康でたくましい正常な精子のみの選別が可能となれば、不妊治療の成功率を高めらたり、受精した赤ちゃんへの悪影響のリスクを下げることができるかもしれません

また、ゆくゆくは不妊症の男性の治療薬を設計したり、あるいは、新しい避妊法を開発するなど、この研究が様々な治療の役に立つかもしれません。

今回の低温ET技術の将来性には、このような様々な可能性があることが示されているのです。


まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回は精子の運動の新たな発見不妊治療への展望についてお話ししました。

現在、“不妊治療が保険適用になるかもしれない!?”という話も出ておりますが、その不妊治療の効果をさらに高められるであろう、1つの大発見になります。

この技術がさらに発展し、不妊治療の現場に応用される日を期待しているところです。

 

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【参考文献】

  1. ナショナルジオグラフィック:「ヒトの精子生産のメカニズム解明」
  2. ナショナルジオグラフィック:「女性の好みが男性器の進化に影響?」
  3. Human sperm uses asymmetric and anisotropic flagellar controls to regulate swimming symmetry and cell steering

【監修医師】

  1. Dr. KyoJi: 医師11年目の外科医, 新宿の医局→フリーランス, 《Twitter》https://twitter.com/dkyoji
  2. 小山翔平: 整形外科専門医