麻酔が効く仕組みを医師監修アニメーションで解説

Medivery


現代医学において、「これがないと成り立たない」と言ってもいいもの、それが何かわかりますか?それは、麻酔です。
高度な手術など、現代医学を実現可能にしたのは全身麻酔だと言っても過言ではないでしょう。ところが、200年近く全身麻酔を行ってきたにも関わらず、私達医師ですら脳の機能を一時的にシャットダウンするその麻酔の仕組みは、実はよくわかっていないと知ったら皆さんは驚かれるでしょう。この記事では、そんな麻酔が効く仕組みについてお伝えします。
今回の内容はいつもよりもマニアックになりますが、ぜひお楽しみください。

こんにちは、メディバリー大学病院です。
このブログでは医師監修の元で病気や健康について発信しています。興味をもたれた方はブックマークをしていただけると嬉しいです。

 

    1. 麻酔が効く仕組み
    2. 私達の意識は、電気信号が保っている
    3. まとめ

     

    麻酔が効く仕組み

    麻酔は、単に人を眠らせるだけではありません。痛覚や他の刺激への反応をなくす、一時的な昏睡に近いものです。麻酔医は適切にクスリを調節し、患者をそのような昏睡状態に保ったり、目を覚ますべきタイミングで元の状態に戻してくれたりします。ところが、麻酔が効いている間、実際に脳の中で起こっている事象については、今日に至るまで謎でした。
    そんな中、2021年に掲載された論文によれば、最も一般的に使われている麻酔薬「プロポフォール」は脳のリズムを乱すことで、意識の形成を妨げている可能性が高いということがわかったのです。私達の意識がある時には、脳から1秒間に7回ほど、特徴的な電気信号が放たれていますが、このリズムが低下すると意識も途切れてしまうとされています。では、この脳内の電気信号は、意識の形成にどのようにかかわっているのでしょうか?

    私達の意識は、電気信号が保っている

    これまでの研究で、「意識を途切れさせないようにするには、脳内の視床という部分において、特徴的で一定のリズムを刻む電気信号が必要なのではないか?」という仮説を得ていました。しかし、この電気信号を調べるためには生きている人間の脳を使う必要があり、人道的観点から実行できていなかったのです。ここでこの問題に立ち上がったのが、世界大学ランキング1位のMIT(エムアイティー)(マサチューセッツ工科大学)の研究者たちです。彼らが用いたのは、人に近いサルを使い、脳の表面にある皮質と、脳の奥にある視床(ししょう)に電極を埋め込んで麻酔をかけ、脳内の電気的な反応を観察する、という実験方法でした。その結果、意識がある時には1秒間に7回ほど電気信号がみられ、麻酔が効き始めると徐々に減り始めて30分後には0.2~0.5回までに低下しました。その後麻酔を中断すると、スパイク(電気信号)の反応は徐々に回復して、スパイクの反応が1秒間に3~5回観察されるようになると、サルは意識を取り戻しました。
    ここで一息つきましょう。今わかっていることは、「意識を形成するにはスパイクが必要不可欠である」ということのみです。次に考えるべきは「どうしてスパイクが必要なのか」ということです。単純な電気信号であるスパイクがどのように意識の形成に関わっているのか、この問題に対するヒントとなったのが、2015年の研究で観察された皮質と視床の関係性にありました。この研究では、麻酔による無意識の状態において、皮質と視床との間にわずかながら電気信号の同期が確認されました。これまで意識があるときに必要となるのは、脳内における電気信号のコミュニケーションのような高度な処理が必要であると考えられておりましたが、ここでMITの研究者たちは、先の実験でみられた7回の電気信号がこの干渉と深く関係している、かつ脳の奥にある視床が大きな役割をになっているのではないかと考えたのです。そしてこの証明のために、麻酔で意識がないサルの視床を大出力の電気で刺激しました。すると視床から発せられる電気信号が観察され、脳の他の部分でも電気信号が観察されるようになりました。そこから脳が徐々に活動を始め、次第に脳が覚醒している場合に観察される干渉状態、いわゆる高周波のスパイクが観測されはじめると、この時点ではまだ麻酔が効いている状態であったサルが、目を覚ましたのです。
    この結果から、視床から発せられる単純な電気信号が、意識形成をするにあたってベースの役割を果たしており、同時に大きく依存していることが読み取れます。またこの視床からの電気信号に促されたことで、脳の他の部分でもスパイクを発し始めたことも確認されました。このことから、脳にとって視床が、無意識状態から意識状態に移行するスイッチとしての機能として働く領域であることを示しました。MITの研究者たちが観測したスパイクは、脳内部の各所が行うコミュニケーションの復活に関して、重要な役割を果たしていたということです。
     今回の研究で使用されている麻酔「プロポフォール」は、脳全体の様々な機能を抑え込むのではなく、スパイクを減少させて電気的な脳の活動のリズムを狂わせることで脳を無意識状態にいざなっていたということが明らかになりました。

    まとめ

    今回の麻酔のメカニズムのように、現代の医学でもわかっていないことは数多くあります。むしろ、現代の医学では解明できていることの方がまだまだ少ないとさえ感じられます。みなさんがイメージしやすいものでお伝えすると、腰が痛い患者さんを 100人集めて、MRI など現代の医学でできる最高の検査をすべてやったとしても、痛みの原因を指摘できる人は 20人しかいないとされております。残りの80人は原因不明なのです。あくまでこれは一例ですが、それくらい現代の医学はまだまだ不完全なものです。
    今回の麻酔が作用するメカニズムでいきますと、GABA受容体(ギャバじゅようたい)を標的とするクスリの作用のメカニズムは解明されましたが、NMDA受容体(エヌエムディーエーじゅようたい)を標的とするクスリのメカニズムは未解明です。これからも、まだまだ医学研究には課題が多いのですね!

    メディバリー大学病院では、コメント欄で記事にして欲しい内容も募集しています。健康や原因不明の症状で悩んでいる事があれば、
    ぜひ、コメント欄でお知らせください。
    この記事がためになった、面白いと思った方は、高評価とブックマークをしていただけますと、今後の活動の励みになります!最後までご覧になっていただきありがとうございました。

    【監修医師】

    1. Dr. KyoJi: 医師11年目の外科医, 新宿の医局→フリーランス, 《Twitter》https://twitter.com/dkyoji
    2. 小山翔平 (Shohei Oyama): 整形外科専門医, おやま整形外科クリニック院長 《Web》https://oyama-seikei.gassankai.com/

    最先端の医学研究に関連する記事

    【がんと診断されたら】入院前から手術後までの流れを解説します

    【がんと診断されたら】入院前から手術後までの流れを解説しますの画像

    【がんと診断されたら】入院前から手術後までの流れを解説します

    一般的に、がんと診断されてから実際に治療が始まるまでは、何度か病院に通い必要な検査を受けます。また入院が必要な場合には、病院の所定の窓口で入院の申し込みをします。この期間は風邪などをひかないように体調を整えておくことは必要ですが、基本的には、これまでどおりの生活で大丈夫です。ただしほかの病気がある場合や、がんの種類や治療の内容によっては、食事制限など生活面での注意が必要な場合もありますので、事前に担当医や看護師に確認しておくことが必要です。

    風邪をひくとどうして発熱するのか?そのメカニズムを解説【医師監修】

    風邪をひくとどうして発熱するのか?そのメカニズムを解説【医師監修】の画像

    風邪をひくとどうして発熱するのか?そのメカニズムを解説【医師監修】

    みなさん、風邪を引いた時に発熱したことはありますよね。少し温度が上がっただけだというのに、悪寒がしたり、よく眠れなくなってしまったり、トイレに行くだけなのに息も絶え絶えになったりと、発熱のない風邪と比べるとその症状は大きく違ってきます。
    日本人の平均体温は、およそ36.9℃前後と言われており、表面などでは人それぞれまちまちですが、体の中の温度は全体的にほぼ変わらないとされています。

    【要注意】悪い油・糖質・塩分を取り過ぎると、血管の中は●●します!

    【要注意】悪い油・糖質・塩分を取り過ぎると、血管の中は●●します!の画像

    【要注意】悪い油・糖質・塩分を取り過ぎると、血管の中は●●します!

    動脈硬化、脂質異常症、高血糖、高血圧。皆さん一度は聞いたことがあると思いますが、これらがどのようなメカニズムで起こっているのかはご存知ないかもしれません。これらの疾患は、悪い油のとりすぎ、糖質のとりすぎ、塩のとりすぎによって起こります。
    今回の記事では、悪い油・糖質・塩をとりすぎたときに血管の中で何が起きるのか、また、それぞれどのくらいの摂取量が適切なのかを解説します。